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1)書字困難児を対象とした漢字手書き学習支援システムの開発
光安 祥* 中島 範子** 岡崎 泰久* 中村 理美** 園田 貴章**
(*工学系研究科 知能情報システム学専攻 **文化教育学部附属教育実践総合センター)

2)中学校漢字読み方教材

3)ひらがな一文字読み教材

書字困難児を対象とした漢字手書き学習支援システムの開発
光安 祥* 中島 範子** 岡崎 泰久* 中村 理美** 園田 貴章**
(*工学系研究科 知能情報システム学専攻 **文化教育学部附属教育実践総合センター)
1.はじめに

宇野[1]によれば、漢字の音読では5~6%、書字では7~8%の児童に困難がみられる。漢字の記憶は手の運動を通して強化されると考えられるが、漢字書字困難児は、書くことに拒否反応を示すことが多い。
本研究の目的は、書字困難児の書字動機を高める学習支援システムを開発することである。手書きで漢字を書き、即座に採点結果をフィードバックすることで、児童の書字動機を高めることが出来ると考えた。入力には液晶ペンタブレットを用いるため紙面と同じ感覚で学習することが可能である。タブレットを用いた書字困難児への選考事例として文献[2]があるが、間違い箇所の確認が出来ないため、システム単体での指導は不十分である。本システムでは、一画ずつ行う「とめ」「はね」「はらい」の評価と、「とじる」「こうさ」「ながさ」の評価によって採点を行う。採点結果は、間違い箇所の指摘と評価メッセージ、100点満点のスコアとして表示される。書字困難の児童は、お手本を見ても正しく書けない場合もあるため、なぞり書きと書き出し位置のマーキング機能を実装した。また指導者向きの機能として、書いた漢字の保存、復元機能を実装した[3][4]。
2.システムについて

本システムの画面を図1に、システムの構成を図2に、システムの開発環境を表1に示す。液晶ペンタブレットを用いることで、紙面と同じ感覚で学習可能なシステムである。また、Wintabを用いることで、タブレットから座標・筆圧データをリアルタイムに受信できる。画面に漢字を書き、採点ボタンを押すと、「とめ」「はね」「はらい」をペンのスピード、筆圧をもとに解析する。また、各座標の位置関係から「とじる」「こうさ」「ながさ」の評価を行う。これらの評価結果と、手書き文字認識の認識結果によって採点し、誤りがあればその部分に×印がついてフィードバックされ、満点のときは花丸の画像が表示される。この間違い箇所によって100点満点で点数が表示され、点数に応じて6種類の評価メッセージが表示される。
他の機能として、なぞり書き、書き出し位置のマーキング機能、ストロークの保存、復元機能を実装している。なぞりがきは、お手本を見ても正しく書けない児童のための機能で、記述枠にお手本と同じフォントが灰色で表示される。書き出し位置のマーキングは、なぞりがきだと線をなぞることを意識しすぎて、逆に書きづらい児童のための機能である。どちらの場合も通常の書き取りと同じように採点することが出来る。ストロークの保存機能により、書いた漢字をCSVファイルとして名前をつけて保存することが出来る。保存した漢字はいつでも復元して採点結果を表示することが出来る。これにより過去に書いた漢字と比べることで書字の上達を確認することが出来る。

図1 システムの画面


図2 システムの構成


表1 開発環境
OS  Windows XP home Edition SP3
開発環境 Microsoft Visual studio 2008
開発言語 C++
手書き文字認識 富士通手書き文字認識SDK
入力インタフェース WACOM DTZ-1200W
筆跡データ取得 Wintab SDK
3.文字の評価方法

本システムは、手書き文字認識と一画ごとの「とめ」「はね」「はらい」の評価、「とじる」「こうさ」「ながさ」の評価によって漢字を採点する。評価方法は、まず座標データを手書き文字認識へと渡して認識結果を得る。次にストロークの本数を確認して、総画数と等しいかどうか調べる。認識結果とストロークの本数が違っている場合は、採点されずに書き直しを促すメッセージが表示される。スコアは認識結果とストロークの本数の確認で40点加算され、残りの60点を点画の評価に振り分ける。
「とめ」「はね」「はらい」の評価は、まず各ストロークの後半部分のデータを取り出して、速さを2次関数に近似し、筆圧を1次関数に近似する。近似を行なうことで、ばらつきが見られる座標や筆圧のデータの特徴をつかむことが出来る。次に、各ストロークの速さの近似関数の始点、頂点、終点の位置関係、筆圧の近似関数の傾きから「とめ」「はね」「はらい」の判定を行う。本システムの「とめ」「はね」「はらい」の特徴を表2に、「とめ」「はね」「はらい」のストロークと近似関数をグラフ化したものを図3から図7に示す。
「とじる」「こうさ」「ながさ」の評価は、「とじる」は該当する座標の距離を調べる。「こうさ」は、ストロークの始点、終点の位置関係から求める。「ながさ」は、該当するストロークの長さを調べて求める。
この手法の精度を調べるために書字困難ではない児童20人の「山」「月」「本」「赤」の書字データを収集、分析することで、これらのデータで認識率を調査した。結果を表3に示す。「とめ」の認識率は高かったが、「はね」と「はらい」の認識率はあまり高くならなかった。「はね」は、方向の変化した点の場所の推定がうまくいかないことがあるためである。「はらい」は「とめ」の逆の特徴を持つため、「とめ」の評価を甘くするとどうしても厳しくなってしまう。これらの精度の向上は、今後の課題として挙げられる。

表2 本システムでの検出するストロークの特徴
点画 速さ 方向の変化 筆圧
とめ 遅くなる あまり変化しない 強くなる
はね 速くなる あまり変化しない 弱くなる
はらい 遅くなった後、速くなる 遅くなった点で大きく変化する

図3 「とめ」のペンの速さの変化


図4 「とめ」のペンの筆圧の変化


図5 「はらい」のペンの速さの変化


図6 「はらい」のペンの筆圧の変化


図7 「はね」のペンの速さの変化


表3 「とめ」「はね」「はらい」の認識率
とめ はね はらい 合計
認識率 91.7% 80.7% 87.6% 89.1%
総数 409 93 175 677
間違い回数 34 18 22 74
4.評価実験

平成22年3月29~31日の3日間、書字困難児3名を対象に1回の指導で5字ずつ、45分間の個別指導を行った。3名の児童の特徴を表4に示す。1日の学習プロセスは、漢字5字をどの程度書けるか確かめるための事前テスト、システムでの学習、事前テストと同じ問題の事後テストという流れである。その後、翌日再度同じ問題で定着状況を確認した。学習した漢字は文献[5]の2、3年生用の中で、1字で単語となる「山、右、月、本、青、赤、男、町、車、左、雨、草、耳、糸、空」の15字である。
実験では、3名全ての児童が積極的に繰り返し何度も書いた。また満点での花丸表示により、書字への満足感を得た様子が確認できた。正答率に関しては、事後テストで約40~60% 、確認テストで約20% の向上がみられた。個別の結果としてA児は特に「とめ」を意識して、何度も書き直す様子を確認した。B児はシステムを用いた指導後のテストで文字をバランスよく、大きく書いた。A児、B児の書字変化をそれぞれ図8、図9に示す。左が事前テストで右が事後テストである。どちらの児童も、事後テストのほうが文字をバランスよく書けていることが分かる。また、B児の「はらい」の運筆に関して上達が見られた。B児の「はらい」の速さのグラフを図10に示す。1日目の運筆は速さが不安定なのに対して、2日目では早くなっていく運筆になっていることが分かる。C児に関しては書字動機の向上は確認できたものの、鏡映文字には特に変化は見られなかった。システムによる点数での評価が、書字動機を高めただけでなく、点画への意識、書字の丁寧さ、運筆の巧緻性の向上につながったと考えられる。

表4 対象児童の特徴
A児 小学3年生男児。平仮名、片仮名にも困難を示す。学習の抵抗感が特に強い。
B児 小学2年生男児。運筆にぎこちなさがある。
C児 小学3年生女児。左利きで鏡文字がみられる。

図8 A児の書字変化                  


図9 B児の書字変化


図10 B児の「はらい」のストロークの変化
5.まとめと今後の課題

本研究では書字困難児を対象とした漢字の手書き学習支援システムの開発を行った。ペンタブレットから取得した座標から漢字を、一画ごとに「とめ」「はね」「はらい」として評価することと、「とじる」「こうさ」「ながさ」の評価を可能にした。実験では採点や花丸表示が児童の書字動機を高め、「とめ」「はね」「はらい」を意識させることで書字の上達を確認した。
今後は、評価の精度の向上、筆順や運筆のガイド機能、音声によるガイド機能、評価メッセージの充実、学習可能な漢字を増やすことが考えられる。
参考文献

[1] 宇野彰,“発達性dyslexia,” Molecular Medicine,41(5),pp.601-603(2004).
[2] 兵庫教育大学・勝美印刷株式会社協同 Eスクエア・アドバンス「IT活用教育推進プロジェクト」,“読字・書字障害児へのタブレットPC利用と指導改善プロジェクト”
http://www.shok.co.jp/cechomepage/
[3] 光安祥 中島範子 岡崎泰久 中村理美 園田貴章,
“液晶ペンタブレットを用いた漢字学習支援システムの開発(1)
~漢字書字困難児の書字動機の向上を主眼として~,”
日本LD学界第19回大会発表論文集,pp.658-659(2010).
[4] 光安祥 岡崎泰久 渡辺健次 田中久治,
“書字困難児を対象とした漢字手書き学習支援システムの開発,”
佐賀大学大学院工学系研究科2010年度修士論文(2011).
[5] 宇野彰,“小学生の読み書きスクリーニング検査,”インテルナ出版(2006).

謝辞
本研究にあたり、実験に協力して頂きました児童、及び本庄小学校、神野小学校児童クラブのスタッフの方々、手書き文字認識エンジンを提供して頂きました富士通研究所の方々に心から感謝いたします。

本研究の一部は、平成22年度 文部科学省特別経費(プロジェクト分)「発達障害・不登校及び子育て支援に関する医学・教育学クロスカリキュラムの開発」の支援によるものです。

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